楽しみをつなぐ場所「和のみ」

当麻のオススメスポット

私は「表現が好き」だ。それは3歳から17歳まで習っていた、ピアノのような“音楽”であり、本の虫だった小学生の頃から、親しんできた“文章”であり、ふと4年前に描き始めた“絵”であったり。音楽に具体的な説明性はない、言葉には壁がある、絵は抽象を越えられない。なにかしら制限のある手段たちだが、その制限の中でめいっぱい自分の世界を投影してみせることが面白い。今まで何気無く好んできたものたちに、どこか重なり合うものがあるということを、最近気づいた。それが「表現」である。それぞれやり方は異なるけれど、自分と他人をつなげること、人と人の心をつなぐ役割をすることが共通している。だから手段は違っても、表現というものが好きなのだろう。

音楽、陶芸、喫茶、宿泊業…。一見なんの接点もない、“ごった煮”の店舗「和のみ」を経営するのは、紺色の作務衣が似合う菅野さんだ。和のみは喫茶店でありながら、敷地に陶芸教室と宿泊所を構える。土日の夜には喫茶店はライブハウスとなり、音楽に関する様々なイベントが行なわれる。

彼は、今自分がやっていることを『夢の集大成』だと語る。音楽・陶芸・料理。自分が大好きなこの3つを、”立体的に表現”する。彼にとって和のみは『表現の場所』なのだ。

北海道らしいまっすぐな道なりの当麻町の丘を車で登り始めると、紫色に黄の字で「和のみ」と書かれた看板と、シックな雰囲気の建物が現れる。二階建ての建物がふたつ、駐車場に細長いプレハブがひとつ。計3つの建物で、店は成り立っている。一番大きな木の家が音楽と喫茶の場で、二つめの黒い壁の家が宿泊所、黄色のプレハブが窯も備えた陶芸教室。

和のみ
左端の黄色のプレハブが「陶芸教室」、中央奥が宿泊所、右手前が喫茶「和のみ」。中央に立つのが主人の菅野さん

和のみは長年、旭川市東旭川駅の近くで1軒の古民家を改装し営まれていたが、2017年11月、当麻町に移転新築オープンした。

「この土地に惚れ込んだのですよ」

”旧”和のみが存在していた東旭川駅の近くは、旭山動物園の行き帰りに寄る客足が多いであろう、商売人の好立地だ。そこを離れ、郊外の当麻町をわざわざ選んだ理由を聞くと、菅野さんはこう答えた。

「ガーデン街道に店を持つのが夢だったのです。商売のために、人が来る道のそばに店は建てたい、音楽をやるから、周囲に迷惑がかからないよう、郊外の田舎がいい、郊外なら車が必須だから、広い駐車場の持てる場所。そうした条件で街道沿いに土地を探し、役場や地主を尋ねて断り続けられて、奇跡的に見つかったのが当麻町のこの場所。ここに出会うまで2年はかかったな」

ガーデン街道とは、北海道の代表的な美しい8つの庭園が集中する、大雪〜富良野〜十勝を結ぶ全長約250kmの街道である。北海道独自の気候や景観を生かした自然の風景や花々、アクティビティーと食を楽しめる観光ルート。庭園同士をつなぐ道沿いには、一年中多くの人が訪れる。当麻町民だけでなく外の人々を呼び込めることが、この場所の強みだ。

「“和のみ“は東旭川でやっていた時から飲食店だったけれど、わざわざ遠くから来て食事だけで帰るのも勿体無いし、なら泊まってもらおうじゃないかと、当麻では宿泊所も建てちゃった。宿泊業で商売しようなんては考えてなかったね、とにかく、お客さんに喜んでもらうにはどういうものが必要か、そればかり考えていた」

和のみ
大人数向けの宿泊所

立ち上げた途端、半年先まで予約がいっぱいになってしまったという人気の宿泊所は、喫茶の隣にある。たった一棟、ひと組用の宿泊所だが、一棟だからこそみんなが集まって過ごせるようにとの、菅野さんの工夫が凝らされている。

「客層は、お友達との旅行やファミリー層を考えています。バスタブは3〜4人一気に入れるくらいの広さ。部屋に入って二段ベッドやロフトが見えた時、子供さんたちがそれはもう喜ぶ喜ぶ。普通のお風呂やベッドじゃなくて、みんなが集まって楽しめる 空間にしたかった」

ロフトベッドなんて、普段なかなかお目にかかれない。見学させていただいた時、年甲斐もなくはしゃいでしまった。梯子のような階段をバタバタと駆け上がり、天井が低く、秘密基地のようなロフトの空間に胸を高鳴らせる。

和のみ
一階には二段ベッドと二階ロフトにつながる階段がある

和のみ
ロフトベッドの雰囲気はバツグンだ

床すれすれに長細い窓がある。なんとベッドに寝っ転がれば、足元に北海道の山並みが見えるという仕組みだ。すごいすごいと目を輝かせた。ロフトから体を乗り出せば人の頭が見える。これは間違いなく子供が喜ぶ。階下でくつろぐ親に向かって子供がキャッキャと手を振り、大人が微笑んで手を振り返す。そんな風景が脳裏に浮かんだ。

「宿泊客は喫茶店の棟に来れば、出来立てご飯を食べられます。一応、和のみのメインは飲食ですからね」

和のみ
宿泊所の隣にある喫茶店は当麻町の木で出来ている

和のみの厨房に立つのは菅野さん。喫茶店では、菅野さんの好物である「グリーンカレー」や、人気ナンバーワンのとろけるような「名物豚角煮御膳」、体に優しい「酵素玄米御膳」と言った食事メニューに加え、ぜんざいの上にもちもちとした食感の生麩を使用した「和〜パフェ」、ぷるっと喉ごしの良い「わらび餅」などの甘味が揃う。飲み物はコーヒー、煎茶から、アルコールまで。お酒好きの菅野さん自慢のコレクションである、一本数十万のスコッチウイスキーが嗜める時もあるらしい。

飲食業を目指して若いうちから修業していたのかと思えば、そうではないという。

「飲食をやろうと思ったのは、任されていた呉服の店でパーティーをしたら、楽しかったことがきっかけ。買ってくださった着物をお客さんに着てもらって、パーティーを開いたんです。150人全員着物のカクテルパーティー、800人の着物ディスコ。すごい規模でしょ。イベントを企画して盛り上げるのが大好きなんですよ。楽しめるようにとお酒やご飯を一緒に出したら、お客さんが本当に喜んでくれて。呉服屋の次は、そういう場所を作れる商売をしたいと思いました」

北海道出身の菅野さんは、高校卒業後にすぐ京都の呉服屋に就職した。

高校時代は音楽に明け暮れていた。当時はフォークソングやギターの弾き語りが流行しており、菅野さんも自分のギターを買った。その後サザンオールスターズをはじめとするバンドの時代になっていき、衝撃を受けたという。卒業して呉服屋に勤めながらも23までギターを弾き、バンドを組んでライブハウスで演奏をした。

しかし全国各地に支店を持つ呉服屋の東北店に異動し、忙しさに、次第に音楽からは離れてしまったという。

「京都の呉服屋で働いていた時、茶道を習っていたんですね。そのせいか、着物でカクテルパーティーをやった後に、今度は“お茶会”も良いなあって。そう思ったら突然、陶芸がやりたくなった。茶道でずっと古い器に触れていて、陶芸には惹かれていた。『自分の作った器でお茶会が出来たら最高じゃないか!』と閃きました。それから陶芸を学び始めたんです」

和のみ
陶芸教室

和のみの駐車場にあるプレハブは陶芸教室になっており、申し込めば、菅野さんに教わりながら誰でも器を作ることが出来る。喫茶の料理が載る皿、飲み物が入れられるカップ、店内を彩る陶器のインテリア…それらはほとんど、ここから生まれた菅野さんの作品である。

和のみ
奥には焼く釜もある

「喫茶と陶芸、というと飲む器をまずイメージする。けれど、焼き物はなにも飲み物用のものだけじゃない。皿だってある。陶芸でお皿を作ったりすると、それを使える懐石料理という文化に興味を持って。そこから飲食を本格的にしたくなりました。料理にハマって、北海道に帰ってから旭川の飲食街で32歳から5年くらい、飲食の店を経験しました」

今の菅野さんにとって、若い頃にたしなんだ茶道の経験が、陶芸と飲食の道を選んだ根底にあるようだ。

「僕は茶道を“総合芸術”だと思っています。あらゆる物事につながっている。特に、“おもてなし”の心。茶道はただお茶をたてるだけではないのです。お茶には“添える”というものがある。手を添える、心を添える。文化として、芸術として、流れや立ち振る舞いは、流派が違っても通じるものがあります。一期一会、出会った瞬間にもう二度と会えない、会った時にその場所でどうおもてなしをしようか。“道”のつくものは、そういう思いやりや優しさを身につけられるのです」

人足の多い駅前ではなく自然豊かな当麻町に出会い、その地でぬくもりを築いた。お客さんにただ喜んでもらいたくて、工夫を凝らした宿泊所を建てた。店では呉服屋に勤めた経験を活かし、和装の着付けも教えているという。

出来ることや好きなことを、与えられた場所でめいっぱい表現しながら、人に対するおもてなしの心を忘れない。

菅野さんが大切にする優しい“道”が、和のみにはそのまま投影されている。

和のみ
喫茶の壁に手作りの器が並ぶ

「陶器って、”ただそこにあるだけ”では冷たい器でしょ。でもね、この場所にある陶器は違う。なぜかっていうと、ここが当麻町だから。当麻町は木材の町で、木のぬくもりに溢れている。店の中も外も、全部当麻町の木を使わせてもらっています。手作りのもの同士は惹かれ合うんだと思う。木と器、ふたつがつながり、ぬくもりが生まれて、そこに作った料理を載せられるっていうのは、最高の幸せですよ」

そう語る彼の嬉しそうな声色と笑顔に、胸の奥が暖かくなった。

和のみ
みたらし団子は京都本場の和菓子屋さんのお取り寄せ

陶芸と料理のつながりは分かった。では一度は離れた音楽を、和のみで行なっているのにはどんなキッカケがあったのだろう。

「東日本大震災が起きた2011年。僕が昔、呉服の支店でいた東北ですごい被害があった。連日の放送で現地のことを聞いていると、若い頃に過ごした東北…自分の青春時代を思い出した。そしたらふと音楽のことが蘇ってきたんだよね。やっぱり自分の青春は、音楽と共にあったから。家の物置から埃をかぶったケースを引っ張ってきて、30年ぶりにギターと向かい合った。磨いて、調整して、ピンと張りなおした弦に触れていたら、いきなり一つ、歌が出来てしまったんだ」

”その瞬間の出会い”を大切にする菅野さんが、50を過ぎて再び音楽にのめり込んでいったのは必然的だったのだろう。

「北海道に来てギターを再開してから、もう何度か300人規模の音楽フェスをやっています。来年は500人くらい、2〜3年後にはプロアマ問わずに野外フェスをここでやりたい。当麻町の吹奏楽部の子供や町の人と演奏をする。町外からも演奏者やお客さんを呼んで、飲食を出して」

菅野さんは商売のため、の意識をすでに通り越している。和のみで彼が行うのは「表現」と「おもてなし」。

「僕は今年で58歳。今までは、いろんなものを貪欲に経験して人に与えて乗り越えていく働き方だけだったけど、ようやく“自分も楽しませてもらいながら商売をやっていく”歳になったと思ったのです。だから、出逢ったこの当麻町の場所で、こういう“表現”をすることになった。全部、自分の好きなこと」

菅野さんが目指すのは、楽しいコミュニティの場所。当麻町はもともと食べ物屋さんが少ない。喫茶はご飯と一緒に婦人部の会合に使ったり、音楽サークルの発表会やカラオケをしにきてほしい。陶芸教室は商工会や学校の人たちが参加し、そして外の町から宿泊所に人が泊りに来る。

ご飯を食べて終わりではなく、その後も集まり、つながり続ける“おもてなし”の場所を、和のみは目指している。

和のみ
木のぬくもりあふれる店内。壁にはギターがかかっている

かの有名なアップル社のスティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学の卒業式スピーチで発した言葉を、思い出さずにはいられなかった。

“点と点を最初から結ぶのはむずかしいことです。後に振り返ったときに初めて、点と点を結んでいた線が見えるのです。だから、いま一見無関係に見える点も、いずれは自分の人生の中で大きな線でつながれることを、信じなくてはいけません。自分の勘、運命、輪廻を信じ続ける。そういう考えをもっていると、人生に失望することはなく、常に自分に力を与えてくれるようになります”

音楽・陶芸・料理。菅野さんが人生の中で得てきたひとつひとつの表現は異なっている。しかし、人と人をつなぐものとして活かそうとしたとき、それらは一本の線になる。そこに当麻町のぬくもりが合わさり、線は立体的な面として、“和のみ”という空間として機能する。まさにここは彼にとって「夢の集大成」なのだ。たくさんのことを行う菅野さんのバイタリティにびっくりしていたが、すべてをつなげて考え、体現できるから、彼は人生を楽しみ、常に活き活きとしているのだ。

「当麻町に恩返しがしたいんです」

「僕は当麻町に来て感動しました。見学に来たいろんな人に、役場の人は『お昼ご飯に”和のみ”さんはいかがでしょう?』って紹介してくれていたんです。もちろん観光客にも。役場の人自身がご飯を食べに来てくれることもある。移住や木材の助成金など、ハードの面で支援してくれるのは普通の町でも当たり前にある。けど、ソフトの部分もずっと支援してくれる“思いやり”を、当麻町には感じました。こんな町は他にはない。当麻町が大好きになりました。だから恩返しをしようと決めたんです」

「町への恩返しは外貨を稼ぐことが一番だと思う。内側の活性化もそうだけど、よそから来てもらって落ちるお金に価値がある。僕は集客や音楽で人を盛り上げることができる。和のみを通じて、自分にしか出来ないことで、当麻に恩返しをしていきます」

力強く語る表情はこの場の誰よりも若々しく、希望にあふれて見えた。

北海道の素材を使った料理が、器に盛られてやってくる。この店の主人が弾くギターの音色に耳を傾けながら、テーブルごとに話の花が咲く。明日はどこに行こうかなと、泊まりで来た家族連れ。子供は早くロフトベッドで寝てみたくてたまらない。なんだかいい雰囲気ね、と老婦人は手元のカップを両手で包む。また来たよ!この曲が今度は聴きたいな。菅野さんの音楽仲間がやって来る。

静かな当麻町でギターの音を響かせながら、彼はこれからも「表現」で人を集め続けていくのだろう。人生の経験で無駄なことはひとつもない。

全てをつないできた菅野さんの話を聞いていたら、未来を生きていく若い自分は、これからどう好きな「表現」と向き合い、つなげて生きてみせられるだろうかと、考えていた。

「夜になったら、店外の空中デッキに出てください。遮るものがなにもない当麻町の空は、叫びたくなるくらい綺麗ですから」

和のみ
喫茶のテラスは斜面の上にあり、宙に浮いているような感覚になる

想像しただけで素晴らしい景色だと思った。平日の和のみは17:30までしか営業していない。和のみの夜を楽しめるのは、土日17:30からのライブハウス時間か、宿泊で利用する客だけだ。当麻町に来たらぜひ和のみに泊まり、降るような夜空を眺めてみたい。

(ライター:南山大学4年 萩原郁実)

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ふたりごと文庫編集室

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当麻町の魅力を”わかもの&よそもの目線”で伝えていきます!

その時の取材の様子は、ツイッターやInstagram等のSNSで
オリジナルハッシュタグ「#当麻町でふたりごと」をチェック!

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