真っ白のキャンパスに香るピザ〜「ココペリ」

当麻のオススメスポット

しっとりとした空気の中で、さわさわと葉擦れの音が聞こえる。当麻町は面積の65%が森林に覆われる木の町だ。静かな夜に、町の中心から遠く離れたスキー場を目指して車を走らせる。ふと横道にそれ、森の中に入っていくと、彼方にぼんやりと橙色のやわらかな灯がともる場所がある。一瞬、おとぎ話の世界に迷い込んだのかと目を疑った。

ココペリ
当麻スキー場近くに建つ「ココペリ」

森の深い暗闇に、窓からもれる暖かな光。当麻の木をふんだんに使って建てられた情緒あるコテージが、当麻町のピザ屋さん「ココペリ」だ。ココペリとは、インディアンの豊穣の神の名前。看板、ガラス、壁…店の至る所にその人形やモチーフがあしらわれている。

木のぬくもりがいっぱいの内装。外に見えるのは北海道の美しい山並み。森の中でこの店を17年ほど前に開いた樋田夫妻は、暖かな笑顔で私たちを出迎えてくれた___

店に入っていくと、入り口の壁や床に埋め込まれた、色とりどりのビー玉に目を奪われる。

「これは昔、わたしが幼稚園で働いていたときの”おはじき”と”ビー玉”なの。いらなくなった、”ガラクタ”。でもこれを使いたかったの。このお店には、いいものばかりではなくてガラクタを使いたかった。」

そうなごやかに話すのは、ココペリ主人の妻である久美子さん。トイレの壁にもあるのよ、という言葉にドキドキと店の奥にあるトイレに入ってみれば、扉を開けた瞬間、宝石のように光るガラス玉が目に飛び込んで来て、私の中にある子供心が嬉しがった。幼稚園の先生だった久美子さんならではの工夫である。きっと店内にあるココペリの人形や小物も、彼女が微笑みながら選んでいるのだろう。

「当麻町は木材の町。だからこの店は当麻の木で出来ている。」

ポンポンと慈しむようにテーブルを叩く、御主人の守昭さん。ココペリの建築者は彼である。華奢な体躯の久美子さんと対照に、がっしりとした体つき。その腕で金槌を振るい、店を建て、ピザ生地を打ち伸ばし続けているのだろう。そんな逞しさが想像できないくらい柔和な彼の表情に、取材で緊張していた私の心はほぐされた。

ココペリ
木のぬくもりがあふれる店内

「この町は子供が育つ場所としてとてもいい。自然が豊かだし、町が子供を育む政策に力を入れてくれている。はじめ、私は当麻町のことなんて何も知らなかったんです。子供がいたから旭山動物園に行って、ついでにふらりと近くの町に寄ってみたら、偶然『当麻町』という存在を知ったんです。」

旭山動物園のある旭川市から当麻町まで車で30分だ。北の観光地として有名な旭川市は開発が進み、一大都市として栄えている。そんな都会とはまったくと言っていいほど正反対に「なにもない」当麻町に、夫婦が惹かれた理由とは一体なんなのだろうか。

「北海道はたくさん旅行してました。だから知り尽くしたと思ってたんです。でも当麻町のことはすっぽり抜けていて、”自分が知らなかったこと”にびっくりした。なぜかって言ったら、当麻町は観光や対外的なことをやっておらず、道内でも知名度がなかったんです。でも、だからこそすごく”自分たちの暮らし”をやっていける場所だと思いました。」

「富良野とか美瑛とか、自然が綺麗と言ったら北海道にたくさん場所はあります。でも、そういった場所はすでに有名になっていてイメージも作られているから、自分たちがそこに行って染まってしまうのが嫌でした。知らないヒト・モノ・コトの中で、自分が経験したことがないことをしたい。真っ白なキャンバスで自分たちだけしか描けないものを描きたい…好きにやりたかったんです。なにもない当麻町は、私たちのそんな望みを、可能にしてくれると思いました。」

ココペリ
店名の由来となる、豊穣の神様「ココペリ」の人形や小物たち

ふたりの出会いは旅先だった。本州出身の樋田さんご夫婦。昭和36年の同い年。どこにでもいる普通の若者として生きていた。

「特別な才能とかは全くなくて、このままでいいのかな?って、いつも自分の外側に惹かれているような若者でした。知らないことをしたい、知らない世界に行きたい。とにかくいろんなことを求めていたんです。」

「都会にいると人やものが多いでしょう。いわゆる雑踏の中では、自分を見失いがちになる。だから悩んだり落ち込んだりしたときに、『え、こんなとこ?』っていうような場所をフラフラ目指して旅をしていました。」

何もない場所でなら、雑踏の中にいても流されない自分が出来そうだと思った。

行き当たりばったり放浪を続けていたふたりが、不意に出会い、似た価値観をお互いが持っていると分かって意気投合。そして当麻町を見つけた。

それは運命だったのかもしれない。

「探していたわけじゃなくて、そこになにもないキャンバスがあって。自分たちが描けると思ったから…当麻町を選んで、この店を開いたんです。」

注文を受けてから一枚一枚丁寧にピザ生地を伸ばす。真っ白な生地にソースを塗り、リズミカルに具を載せ、チーズを散らす。まるで白いキャンバスに絵を描いているように見えた。口元は楽しそうに微笑んでいる。慣れた手つきから守昭さんが、この店の主人として過ごしてきた年月や誇りが感じられた。

ココペリ
夫婦ふたりで厨房に立つ

道産小麦のピザは焼き目の部分はサックリ、そしてもっちりとした食感が特徴だという。鉄板の上にピザを並べ、大きな釜にそっと入れる。店内を満たす当麻町の木の香りに、ピザが香ばしく焼ける匂いが優しく混ざる。

ところで、こんな森の中の店に客は来るのだろうか。

「やっぱり、はじめはこんなところだし、続けられるかわからなかったんですよ。でも実際に続けられている。いろんな人が来るんです。妊婦さんも、子連れ家族も、高齢の方が友達と一緒にやってくることもある。リピーターもたくさんいるし、新規の人も同じくらいいる。不思議なものですね。」

間違いなく、ココペリの味が、樋田夫妻の人柄が、魅力的で愛されているからに違いないですよ。

そう私が口にする前に、ピザが焼きあがった。

子育てのしやすい当麻の町ですくすくと育った彼らの子供たちは、すでに大人になり、様々な場所に旅立っていった。北の大地でひっそりとした森の中、ふたりだけで切り盛りするココペリ。具沢山のピザには、仲睦まじいふたりの想いがぎゅっと詰め込まれている。

さっくりとした生地に歯をあて、はふはふと出来立てを頬張る。ひきのあるふくよかなチーズと塩っ気のあるトマトの味わいが口いっぱいに広がって、むちっとした小麦が後味をしめる。笑顔をこぼさずにはいられない。

ココペリ
ココペリのシーフードピザ

焼きあがったピザの彩りに歓声をあげる私たちを、樋田夫妻はまるで可愛い我が子を見守るように、優しげな瞳で見つめていた。

(ライター:南山大学4年 萩原郁実)

\ 私達が当麻町を取材しました!/

ふたりごと文庫編集室

全国の地方創生や情報発信に興味がある大学生が集まるオンラインサロン「ふたりごと文庫編集室」のメンバー8名が当麻町を取材しました!
当麻町の魅力を”わかもの&よそもの目線”で伝えていきます!

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